最近、美容医療で「肌育」という言葉をよく耳にするようになりましたね。うれしいです。
「肌育注射はどれが一番いいですか?」
「ヒアルロン酸はどれも同じですか?」
「何が入っている製剤を選べばいいですか?」
当院でも、こうした質問をいただくことが増えています。
実は現在の肌育製剤はかなり多様化していて、単純に「ヒアルロン酸が入っている」というだけでは、その特徴を説明できなくなっています。
今回は「ハイブリッドヒアルロン酸」という考え方から、肌育製剤をどう理解し、どう選ぶのかについて、少し専門的な内容も含めて解説します。
「肌育」という言葉とヒアルロン酸製剤
実は私自身が、「肌育」という言葉を使い始めたのは、SUNEKOS®(スネコス)が日本に導入された際のローンチセミナーでした。
「skin grow」を肌育という日本語で表現しました。
キャッチーな日本語なので、スネコスの浸透と共にあっという間に広がったと思います。
それまでのヒアルロン酸注入というと、凹みを補ったり、輪郭を整えたりする「形を作る治療」というイメージが中心でした。
一方、スネコスのような製剤を前にして私が感じたのは、形を作るのではなく、肌そのものを少しずつ育てていく治療という考え方でした。
そこで使ったのが「肌育」という言葉です。
その後、肌質の改善を目的とするさまざまな注入製剤が登場し、現在では「肌育注射」「肌育治療」という言葉も広く使われるようになりました。
そして今、肌育製剤はさらに多様化しています。
ヒアルロン酸だけを見ても、分子量、架橋の有無、異なるHAの組み合わせ、アミノ酸やペプチド、PNなどとの組み合わせによって、それぞれ異なる特徴をもつ製剤が登場しています。
だからこそ今、「肌育」をもう一段深く考えるには、製剤名ではなく、その中身と設計を理解することが必要だと考えています。
そもそもヒアルロン酸とは?
ヒアルロン酸(HA)は、もともと私たちの皮膚にも存在する成分です。
高い水分保持能力をもち、皮膚の細胞を取り巻く細胞外マトリックス(ECM)の重要な構成成分でもあります。
美容医療では長年、ほうれい線などの凹みを補ったり、頬やあごの形を整えたりする「ヒアルロン酸フィラー」が使用されてきました。
一方、肌育治療では、形を作ることを主な目的とするのではなく、肌の質感やうるおいなど、肌そのものへの変化を目的としてヒアルロン酸を含む製剤を使用します。
ヒアルロン酸は全部同じではありません
「ヒアルロン酸」とひとことで言っても、すべて同じではありません。
たとえば、ヒアルロン酸には分子の大きさ、つまり「分子量」の違いがあります。
高分子量ヒアルロン酸(HMW-HA)と低分子量ヒアルロン酸(LMW-HA)では、物理的な性質だけでなく、生体内で異なる生物学的応答を示すことが研究されています。
さらに製剤になると、
「どのような分子量のHAを使うのか」
「架橋するのか、しないのか」
「異なるHAを組み合わせるのか」
「ほかの成分を加えるのか」
といった違いによっても、その特徴は変わってきます。
そのため、単純に「ヒアルロン酸が何mg入っているか」という数字だけでは、製剤の違いを十分に比較することはできません。
「ハイブリッドヒアルロン酸」とは?
実は「ハイブリッドヒアルロン酸」という言葉にも、世界共通の厳密な定義があるわけではありません。
この考え方の先駆けとなった代表的な製剤の一つが、PROFHILO®(プロファイロ)です。
PROFHILO®は、高分子量と低分子量という性質の異なるヒアルロン酸を組み合わせた製剤です。(現在当院ではPROFHILO®の取り扱いはありません。かわりにいくつかのご紹介できる製剤がございますので診療の際にお声がけください)
化学的な架橋剤を使用せず、独自の熱処理技術によって異なる分子量のHAからHybrid Cooperative Complexes(HCC)と呼ばれる複合体を形成することが特徴です。
PROFHILO®の登場以降、ヒアルロン酸製剤を考える際には、単にHAの量だけでなく、「性質の異なるHAをどのように組み合わせるか」という視点も注目されるようになりました。
さらに現在では、異なる性質のHA同士だけでなく、HAにアミノ酸、ペプチド、PN(ポリヌクレオチド)など、異なる特徴をもつ成分を組み合わせた製剤も登場しています。
本記事では、こうした「性質の異なるHA同士」、あるいは「HAと他の成分」を組み合わせて設計された製剤を、広い意味で「ハイブリッドヒアルロン酸製剤」として考えてみます。
ハイブリッドヒアルロン酸製剤を「中身」から見ると

※「ハイブリッドヒアルロン酸」は統一された国際的な製剤分類ではなく、本記事では広義の概念として使用しています。
分子量が違うと、ヒアルロン酸の性質も違う
ヒアルロン酸は、分子量によって生物学的な性質が異なることが知られています。
一般に高分子量HAは、高い水和能をもち、細胞外マトリックスの恒常性維持や組織保護に関与します。
一方、低分子化したHAは、細胞遊走、創傷治癒、炎症・免疫応答などとの関連が研究されています。
ただし、
「高分子量HAだから○○」
「低分子量HAだから○○」
と単純に分けられるものではありません。
HAによる生物学的応答は、分子量だけでなく、濃度、組織環境、受容体の発現などにも左右されます。
また、こうした知見の多くはin vitro(培養細胞などを用いた研究)や動物モデルによるものです。
そのため、ヒトの皮膚に注入したときの臨床効果を、分子量だけから予測することはできません。
HAに「何を組み合わせるか」
現在の肌育製剤には、ヒアルロン酸にさまざまな成分を組み合わせたものがあります。
アミノ酸・ペプチド
グリシン、プロリン、リジンなどのアミノ酸は、コラーゲンなど細胞外マトリックスを構成するための材料になります。
一方、ペプチドの一部には、細胞のシグナル伝達に関与するものがあります。
ただし、すべてのペプチドが同じ作用をもつわけではなく、その働きはアミノ酸配列や種類によって異なります。
PN(ポリヌクレオチド)
PNはDNA由来の核酸成分です。
よく似た言葉としてPDRN(polydeoxyribonucleotide)があります。
PNとPDRNはいずれもDNA由来ですが、一般にPNは比較的長鎖、PDRNはより低分子のDNA断片として扱われ、同じものではありません。
PN/PDRNでは、線維芽細胞や細胞外マトリックス、組織修復などとの関連が研究されています。
作用機序としては、アデノシンA2A受容体を介する経路や、分解されたヌクレオチドをDNA合成に再利用するサルベージ経路などが報告されています。
肌育製剤は「成分表」だけでは選べない
製剤について考えるとき、どうしても「何が入っているのか」に目が向きます。
しかし、もう一つ重要なのが、「どこに入れるのか」です。
真皮内と皮下では、注入された製剤の分布の仕方も異なります。
また、製剤によっては真皮だけでなく、皮下組織や脂肪組織など、より深い組織をターゲットとして設計されているものもあります。
つまり肌育製剤は、
組成 × 物性 × 注入層 × 標的組織
まで考えて、初めてその製剤の特徴が見えてきます。
同じ「ヒアルロン酸を使った肌育治療」でも、どの製剤を、どの深さに、どのくらいの量で使用するかによって治療設計は変わります。
「何回やるか」にも理由があります
肌育治療では、
「何回必要ですか?」
という質問もよくいただきます。
製剤によって、初期治療を複数回行うもの、比較的長い間隔で使用するものなど、推奨される治療スケジュールは異なります。
これは、製剤の組成や物性、標的とする組織、期待する変化などが異なるためです。
そのため、すべての肌育製剤を一律に3週間に一回と考えのではなく、それぞれの製剤に合わせて治療計画を立てることが大切です。
研究で細胞が変化していても、「見た目で分かる」とは限らない
ここは、前回の記事でお話しした美容医療における「認識閾値」にもつながります。
美容医療の製剤では、in vitro研究などで、
「コラーゲンに関連する遺伝子発現が変化した」
「線維芽細胞に変化が認められた」
といった結果が報告されることがあります。
こうした研究は、その製剤の作用を理解するうえで大切です。
しかし、
細胞レベルで変化が確認されること
と、
実際の患者さんの肌に変化が起こること
そして、
その変化を患者さん自身が「変わった」と認識できること
は、それぞれ別の話です。
測定上は変化していても、その変化が小さければ、患者さん自身には分からないこともあります。
私は、患者さん本人や周囲が「変わった」と認識できる水準を、美容医療における「認識閾値」と考えています。
一回の施術による変化が小さくても、適切な間隔で治療を重ねることで、変化が積み重なることがあります。
一方で、ただ回数を増やせばよいわけでもありません。
製剤の組成、作用、注入層、標的となる組織、適応、治療間隔、そして実際の臨床データ。
これらを理解したうえで、患者さんの肌の状態に合わせて治療を設計する必要があります。
場合によっては、一つの製剤を繰り返すより、異なる特徴をもつ注入治療や機器治療などを組み合わせる方が適していることもあります。
(スネコスとプロファイロを組み合わせたこちらもご参照ください)
「細胞に作用する可能性がある治療」を、「患者さんが実際に感じられる変化」へどうつなげるか。
ここが、肌育治療を考えるうえでとても大切だと思っています。
まとめ:ハイブリッドヒアルロン酸は「どれが一番?」ではない
ハイブリッドヒアルロン酸製剤を理解するには、商品名だけを覚えるのではなく、
1.どんなヒアルロン酸を使っているのか
2.何が組み合わされているのか
3.どの層・組織をターゲットにするのか
4.どのくらいの間隔で使用するのか
5.ヒトでどのような臨床データがあるのか
を見る必要があります。
新しい成分が入っているから、あるいは成分数が多いから優れている、というわけではありません。
製剤を深く理解し、その特徴と患者さんの適応を合わせること。
肌育製剤は「どれが一番いいか」ではなく、「誰に、何を目的として、どう使うか」。
「肌育」という言葉を使い始めた頃から、治療の選択肢はずいぶん増えました。
だからこそ、改めて「肌を育てるとは何なのか」を、製剤の中身やサイエンスから考えていくことが大切だと思っています。
(だからこそ
この製剤を試したい!といらっしゃった患者様に別の製剤をおすすめすること、そして組み合わせ治療をすすめることがあります)
