昼と夜で肌はどう違う?LA MERの研究に見る皮膚の概日リズム

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美容皮膚科学会で5つの演題発表という、怒涛の重要任務も無事終えました。子供たちの夏休みも、そろそろ終わるタイミングです。

そんな中、ご褒美のようなイベントに参加してきました。高級クリームで有名なラ・メールの、クローズドなイベントです。

ご褒美です。完全に。最高のご褒美。

ラグジュアリーな空間で、サイエンスの話をがっつり聞く。そんな機会になるとは思っていませんでした。

ところが、内容は想像以上に本格的。かなり細胞レベルまで踏み込んだ研究でした。

せっかくなので、美容皮膚科医師の視点からまとめてみます。長いですが、ぜひお付き合いください。

LA MERの研究で印象に残った「昼と夜の肌の違い」

LA MERといえば、ラグジュアリーなスキンケアブランド。そんな印象を持つ方が多いと思います。

私自身もこれまで製品を使ってきました。ただ、研究内容を詳しく聞いたのは今回が初めてです。

特に印象的だったのが、皮膚細胞は昼と夜で同じ動きをしないということでした。

皮膚にも「体内時計」がある

私たちの睡眠やホルモン分泌には、概日リズムがあります。

皮膚を構成する細胞にも同様に、circadian rhythmがあります。日本語では概日リズム、サーカディアンリズムとも呼ばれます。

皮膚の細胞にも「体内時計」があるということです。

今回の説明では、日中と夜間で、皮膚に優位な反応が異なると紹介されていました。

日中は紫外線や乾燥、温度変化など、さまざまな外的刺激にさらされます。

そのため、ダメージへの対応や、必要な場所への細胞移動が重要になります。いわゆるrepair responseです。

実験では、緑色に染色された線維芽細胞が、損傷部位へ移動する様子が示されていました。

Sea Kelp Fermentと修復反応

ここで登場したのが、Sea Kelp Fermentです。

これは海藻由来の発酵成分です。LA MER独自のMiracle Broth™の中核となります。

Sea Kelp Fermentを加えた条件では、線維芽細胞のmigrationが高まるようです。損傷部位へ移動する反応が増えたというデータがでていました。

バリア機能、細胞の修復反応、炎症、エネルギー産生。皮膚の恒常性に関わる複数の面から研究されているようです。

夜の肌では炎症と修復がどう動くのか

興味深かったのが、夜間の炎症と修復の関係です。

炎症というと、悪いものという印象があります。しかし本来は、ダメージに対応するための防御反応です。

重要なのは、炎症をゼロにすることではありません。まぁ、そもそもゼロにはなりません。

必要な炎症反応が起こる。その後、組織が修復フェーズへ移行する。

こうした生理的な流れが保たれることが大切です。

今回のデータでは、Sea Kelp Fermentによって、NF-κBや炎症性サイトカインに変化がみられました。

さらにresolvinに関するデータも提示されました。

LA MERでは、この炎症から修復への移行を、Rapid Resolutionと表現していました。

私が面白いと思ったのは

「夜は肌を休ませる」という曖昧な話ではなく、昼と夜で皮膚の細胞の仕事そのものが違う可能性があるという点です。

朝用と夜用のスキンケアを分ける意味

今まで私は、朝用と夜用の違いを、主に処方の差だと考えていました。

テクスチャー、保湿力、紫外線対策。そのくらいの違いだと思っていました。

しかし、皮膚細胞自体に概日リズムがあります。時間帯によって優位な反応も異なります。

そう考えると、見方が変わります。

その時間帯の肌が何をしようとしているのか。そこに合わせて製品を設計する。

この考え方には、生物学的な背景があります。

もちろん、朝はこの成分、夜はこの成分。そうすれば必ず効果が高まる、とは言えません。

ただ、朝用と夜用を分ける理由が、単なるマーケティングではない。皮膚の時間生物学と結びつく点は新鮮でした。

だから夜にザ・モイスチャライジングナイトクリームをつかうと良いのね

生活リズムと肌荒れ

ここでもう一つ

寝不足が続いたり、生活時間が乱れたりすると、肌が荒れることがあります。

原因はもちろん一つではありません

ただ、皮膚にも概日リズムがあります。バリア、炎症、修復にも時間依存性があります。

そう考えると、生活リズムを整えること自体が、スキンケアの一部なのかもしれないと感じました。

ATPは皮膚細胞が働くためのエネルギー

修復やバリア形成には、当然エネルギーが必要です。

そこで登場するのが、ATPです。正式名称はアデノシン三リン酸です。

ATPは「細胞のエネルギー通貨」と呼ばれます。

細胞移動、タンパク質合成、分化、イオン輸送。さまざまな細胞機能にATPが利用されます。

また、プリン作動性シグナル(purinergic signaling)を介して、カルシウムシグナルに関与します。

炎症反応や創傷治癒にも関係しています。

今回LA MERから紹介されたのは、主として細胞自身のATP産生を高める方向へのシグナルでした。

ATPとミトコンドリアの関係

ATP産生だけではありません。ミトコンドリアについても評価されていました。

ミトコンドリアは、絶えず形を変えています。

fusion融合。fission分裂。

融合と分裂を繰り返し、またこのような動的変化を、ミトコンドリア・ダイナミクス(mitochondrial dynamics)と呼びます。

今回の研究では、ATP産生、膜電位、fusion/fissionに変化が確認されたとのことでした。

LA MER独自の複合成分MRA-3™

もう一つ興味深かったのが、LA MER独自の複合成分**MRA-3™**です。

正式にはMarine Retinol Alternativeです。

ただし、MRA-3™自体はレチノールではありません。レチノイン酸でもありません。

着目しているのは、皮膚にもともと存在するretinoid signalingです。

レチノールは皮膚内で代謝されます。最終的に活性型のretinoic acidへ変換されます。

その細胞内輸送や核内シグナルに関係するのが、CRABP2です。

正式名称は、Cellular Retinoic Acid-Binding Protein 2です。

MRA-3™で示された変化

今回のデータでは、MRA-3™によって複数の変化が示されていました。

CRABP2発現上昇。GAG増加。Type I collagen増加。

さらに、cell turnoverは約30%上昇したとのことでした。

比較に用いられたretinolは、約0.1%とのこと。

CRABP2上昇=レチノール作用ではない

CRABP2は、レチノイドシグナルに関係する重要なタンパク質です。

今回確認されているのは、主としてCRABP2発現です。一方で、MRA-3™では他の変化も確認されています。

GAG、Type I collagen、cell turnoverです。

これらは、既知のレチノイド作用と方向性が一致します。

つまり、レチノールと同じ作用が証明されたわけではないけれど、レチノイド様の変化が複数示された。

そのように捉えるのがよさそうです。

GAGが増える

GAGはグリコサミノグリカンのことです。ヒアルロン酸なども含まれます。

GAGは水分を保持します。細胞外マトリックス、ECMの水和にも関係します。

粘弾性を保つうえでも重要です。GAGが増えることは、細胞が存在するECMの環境を整える方向の変化ととらえることができるのではないかと思います。

レチノールのメリットと刺激性

レチノールは、非常に研究の多い外用成分です。

光老化や加齢変化に対して、長年研究されています。

一方、診療では刺激の問題も経験します。

自己判断で強く使いすぎて、赤みや皮むけが続くことがあります。ヒリつきを訴える方もいます。
retinolでは炎症性サイトカインが上昇したりfilaggrinの低下もみられることがあるけれども、MRA-3™では同様の変化が確認されなかったとのことでした。

LA MER側もMRA-3™の特徴として、レチノール様の肌変化を目指しながら、刺激性を抑えることを挙げていました。

もちろん、どんな化粧品でも刺激が出る方はいます。

それでも、レチノイドとは異なる方法で関連経路へ働きかける発想は、とても興味深いと感じました。

化粧品にどこまで求めるのか

臨床試験では、肌トーン、キメ、肌密度、輝き、顔のライン。さまざまな変化が見られたようです。美容医療のRF施術との比較データも、一部紹介されました。
効果を比較するのではなく、高周波と組み合わせて使用することで更なる素晴らしい効果が得られそうです。美容施術の合間の日々のケアとして、良い選択肢になり得ると思います。
特に、モイスチャライジングナイトクリーム

健康な肌とは何だろうか

肌を健康に保つには、様々なアプローチが必要です。

エネルギーを産生できること。外的刺激に対応できること。

バリアを維持できること。炎症反応を適切に調節できること。

ダメージ後に修復できること。ECMを維持できること。

こうした機能が、バランスよく働く必要があります。

一つの成分を増やせば、すべてが解決するわけではありません。

細胞も、ECMも、炎症も、エネルギー代謝も、すべてつながっています。

skin longevityという考え方

近年、skin longevityという言葉をよく目にします。

肌が本来持つ恒常性や修復能力を、できるだけ長く保つ。

この視点は、skin longevityを考えるうえでも重要だと思います。

美容医療では、どうしても「短期間にどれだけ変化を起こせるか」に注目が集まりがちです。

でも、長い時間軸では別の視点も必要です。

肌がダメージを受けたあとに、きちんと回復できること。

それ自体が、とても大切なのではないでしょうか。

そのためには、スキンケアだけではありません。

睡眠や生活リズムを整えることも、ストレスケアまで一緒に考える必要があります。

今回、朝用・夜用の製品を使い分けることにも、生物学的な背景があると知りました。

これは私にとって、大きな発見でした。

ラグジュアリーな世界観の裏側にある、細胞レベルの研究。

ATP、ミトコンドリア、炎症、ECM。

概日リズム、レチノイドシグナル。

サイエンスとラグジュアリーの両立が、とても素敵だと感じました。

貴重な機会にお招きいただき、ありがとうございました。

ラ・メール最新スキン系ア研究
ラ・メール最新スキン系ア研究。スフィア模型

 

 

 

 

 

 

 

 

※本記事は、LA MERのイベントで紹介された研究内容と、私自身の医学的解釈を含みます。

研究データには、in vitroやex vivoの結果も含まれます。

すべてがそのまま、ヒトでの臨床効果を意味するものではありません。

原かや
この記事を書いたのは八重洲形成外科美容皮膚科院長の原かやです