肝斑・老人性色素斑・脂漏性角化症

Bさんのシミの原因

ではそれぞれについて診断と原因を考えてみましょう。

① これは肝斑と呼ばれるものです。肝斑とは出産などをきっかけに悪化することが多いシミで、頬などに左右対称に表れることが多いです。女性ホルモンに関係するといわれており、女性に多くみられます。原因など、はっきりとわかっていないことが多いのですが、紫外線で悪化することがわかっております。夏に悪化することが多く、無治療でも紫外線が少なくなることによって少し軽快することもあるようです。Aさんの場合、日課の犬の散歩で紫外線を浴びる機会が多く、紫外線の強くなる夏に悪化したのでしょう。デパートで購入された高額な美白化粧品で少し薄くなったと喜んでいらっしゃいましたが、紫外線が弱くなってきたことも関係しているかもしれません。

② これは老人性色素斑や日光性色素斑と呼ばれるもので、顔や手の甲、首など日光にあたる場所にできるものです。原因は老化と長期間に及ぶ慢性的な紫外線によるダメージと考えられており、治療をしなければ自然に改善することはありません。はじめは薄い色でも、徐々に色が濃くなってきます。形や大きさは様々で、小さなものから5cmに及ぶ大型のものまであります。日に当たる場所にできますので、いつも服に隠れている場所にはできません。

③ これは少し難しいですね。盛り上がりがあるざらつきのあるシミには二種類が考えられます。脂漏性角化症といわれるもの、もしくは②で挙げた老人性色素斑の少し隆起したもののどちらかでしょう。この二つは厳密に分類するのも難しく、概念的に一連のものと考えられています。ですから原因も②とほぼ同じです。

Bさんのシミに効果的な治療

最後にそれぞれについて治療法を考えてみましょう。

① 肝斑ですが、現在のところ医学的にしっかりとエビデンスの認められている治療としてはトラネキサム酸という抗炎症作用のある薬の内服だけです。三ヶ月目くらいから効果が出るといわれています。レーザー治療などはもともと肝斑に禁忌であり、レーザー治療によって悪化するとされてきました。しかし、最近ではレーザーの会社が開発した、レーザートーニングという治療法が広まってきており、その治療効果やプロトコール、合併症について議論されています。他にはビタミンCの内服やイオン導入、美白剤であるハイドロキノンやルミキシルなどの外用、トレチノインの外用などが補助的に使われます。紫外線予防にしっかりと日焼け止めを塗る習慣をつけることも大切です。

② 老人性色素斑にはレーザー治療やIPLとよばれる光治療がよい適応となります。どちらも効果はありますが、上述の通り、レーザー治療後にはしっかりと軟膏などをぬり、2週間ほどテープで保護する必要がありますので、普段通りお化粧を続けたいという方や一度に広範囲の治療を希望される方には少し回数がかかるものの光治療のほうが向いているかもしれません。他には、肝斑の項でもでたトレチノインという薬剤の外用療法や美白剤の外用などがあります。また、予防にはしっかりとした紫外線対策が必要ですので日焼け止めは欠かせません。

③ 厚みのある老人性色素斑や脂漏性角化症ですが、その盛り上がりの度合いによって効果的な治療が異なります。Bさんの様に軽いざらつきを認める程度のものでしたら、ルビーレーザーのようなレーザー治療が適しています。盛り上がりが強い場合には表面を削り平らにする必要が出てきますので、CO2レーザーや電気メスなどで表面を削る治療が必要になります。削った後は火傷のようになりますので、二週間程度軟膏を塗る必要があります。また、削った傷が治った後も色素沈着が残ることがありますので、そこから美白剤の外用やビタミンCのイオン導入を検討してもよいかもしれません。クリニックによっては光治療を勧められることもあるかもしれませんが、このような厚みのあるタイプのシミには残念ながら効果が薄いです。また、トレチノインなどの外用剤も単独治療では効果が薄いでしょう。

それぞれの治療方針について書きましたが、Bさんのように肝斑を併発している場合、治療の順番も大切です。肝斑の部分には大抵の場合、ほかの色素疾患を併発していることが多いのですが、肝斑はレーザー治療で悪化してしまうので、まず、トラネキサム酸の内服を3か月程度継続し、肝斑が改善してから他のシミの治療に入るのがよいでしょう。

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